こんにちは。中小企業診断士のマスミです。
前回は「弱者の戦略」「強者の戦略」について基本戦略と具体的戦法の考え方をみてきました。
強者の戦略の「ミート戦法」のえぐさに恐れおののいています。
涙目です・・
まあまあ、び~社長、泣かなくても・・
弱者から成功したHISやセブンイレブンを思い出してください。
「弱者の戦略」を実践して成功した会社はたくさんあります。
そうでした~!頑張ります!
単純・・・ww
では今回は、これまでずっと基準にしてきたシェアの話をしていきます。
今回がランチェスター戦略の基礎の最終回です。ここまで理解するとだいぶやることが分かるようになります。
- 市場で目標とするシェアが分かる
- シェアの出し方が分かる
- ランチェスター戦略で大切な3つの結論が分かる
この記事は全3回の最終回ですので、以前の記事を読んでいない方はまずはこちらからどうぞ。
市場シェアの目標値
シェアを上げるため様々な作戦を行って1位になったとして、どこまでシェアを上げれば良いのでしょうか。
前回の記事でも少し触れましたが、戦争に置ける戦略と戦術の重要度について結論を導きだした「クープマンモデル」の数式を元に、田岡信夫さんと斧田公望さんの2人が、市場競争においてこれくらいのシェアだとこうなるよ、という目標値を3つ示しました。
それが市場シェア理論です。現在はより使いやすいよう7つの目標値が設定されています。
73.9% | 上限目標値 | 独占的となり、その地位は絶対的に安全となる。 ただし、1社独占は必ずしも安全性・成長性・収益性がよいとはいえないため、 これ以上取らないほうがよい。 |
41.7% | 安定目標値 | 3社以上の競争の場合、圧倒的に有利となり、立場が安定する。首位独走の条件。 |
26.1% | 下限目標値 | 強者(1位)の最低条件。これを下回ると1位であっても、その地位は不安定。 |
19.3% | 上位目標値 | 弱者だが上位グループに入り、1位も狙える地位。 |
10.9% | 影響目標値 | 10%足がかりといわれ、市場参入時の目標となる。市場全体に影響を与え、 競合とのシェア争いが本格化。上位目標値までがシェアアップの難所。 |
6.8% | 存在目標値 | 競合に存在を認められる程度で、シェア争いが本格化する前の段階。 撤退の基準とする場合もある。 |
2.8% | 拠点目標値 | 市場参入時に、まず橋頭堡(きょうとうほ)をつくる段階での目標値 |
数字が細かいので、74%、42%、27%、20%、10%、7%、3%くらいを目安にしていいと思います。
この数値の意味を補足していきますね。
目標値の意味
上限目標値73.9%
まず上限目標の73.9%ですが、ここまでシェアを獲得していると、残りのシェアは26.1%となります。この26.1%を3倍しても73.9%には届かず、絶対的な独り勝ち状態になります。
これ以上シェアを伸ばそうとすると、競争自体が無くなって市場が縮小する恐れがあったり、優良な顧客はほぼ獲得できていると考えられ、残りの顧客を獲得するためのコストが利益に見合わなったりするためこれを上限としています。
シェア73.9%を超える企業ってどんなところなんでしょう。
そうですね、何回か登場しているマクドナルドはハンバーガーチェーンで約76%、ファスナーだとYKKがなんと95%です。
おおお!95%とは!すごいですね~
シェア参考|日経産業新聞2017・日本の技術と世界シェア
安定目標値41.7%
目標値の中で一番有名なのが41.7%です。
この数値は首位独走の条件で、独走状態だと「収益性」「成長性」「安全性」が高まるため多くの企業が目指す現実的な数値です。
競合が1社しかないような業界は別として、通常は競合は多数あり、41.7%を取れていればほぼダントツになれます。
ダントツになると、2位以下の企業は無理して戦うことを諦めて住み分けを考えるようになります。
逆に41.7%を取れていないと、まだまだ安心できないということになります。
ビール業界でアサヒとキリンがシェア30%代でシェア争いをし続けているのが安心できない典型的な例です。
シェア参考|DIAMOND online
41.7%を超えている企業って例えばどんなところですか?
宅配便だと、クロネコヤマトが42.3%、ガソリンスタンドなど石油販売でENEOSが47%ですね。
どちらもこの業界といえば・・ですぐ思いつく会社ですね。
シェア参考|業界地図2021
下限目標値26.1%
この26.1%というのは強者(1位)の最低条件です。
多くの場合、競合が多数いますので26.1%のシェアがとれていれば1位になっている可能性が高いです。
まずはその市場で1位を目指すための最低条件としてこの26.1%が設定されています。
なぜ26.1%なのかというと、仮に自社以外の企業がすべて合併したとしても73.9%未満で、3倍以上の差は開きません。ですので、何かあった時でもなんとか生き残れるという数値です。
なぜ3倍を基準にしているかは、後ほど「射程距離理論」で説明しますね。
上位目標値19.3%
上位目標値というのは、1位ではないにしろ、1位を狙えるくらいのポジションになる目安です。
影響目標値10.9%
新商品開発などでは当面の目標となるのがこの10.9%です。10%あしがかりと言います。10%を確保すれば市場全体に影響を及ぼす存在となります。
市場のシェア争いに本格的に参入する基準の数値です。
存在目標値6.8%
6.8%を確保すると市場にその存在が認められるようになります。
ただ、この段階では他社との競争を意識するのではなく、自社の普及のことだけ考えていれば良いです。
商品を発売して長い間が経っているにもかかわらず、7%を超えられていなければ勝ち目が無いため撤退の基準にもされます。
拠点目標値2.8%
2.8%というのは、市場参入時に参入できたかどうかを判断する基準です。
橋頭堡(きょうとうほ)をつくる段階の目標ですが、橋頭保というのはビジネスで言うと新たな拠点のことです。
射程距離理論
ランチェスター戦略では、競合とのシェアの差を重視しています。どれくらい差があれば安心か、どれくらいの差であれば逆転可能かという目安があります。
これは、弱者の戦略の条件下(ランチェスター法則なら第一法則)と強者の戦略の条件下(ランチェスター法則の第二法則)で数値が違います。
第一法則下では3倍、第二法則下では√3倍(≒1.73倍)差が開いているかで考えます。
先ほど下限目標値の26.1%で説明した、自社以外が全て合併した場合は2社間の競争になり、第一法則下の3倍が適用されます。26.1%以上をとれていれば、差が3倍開かないので生き残れるというのはこの理論からです。
ただ、実際は競合が1社という場合はほとんどありませんので、第二法則下の√3倍で考える方が多いですね。
シェアの差としていますが、単純に売上高で計算しても同じになります。
※シェア=自社の売上高/ターゲットとする市場全体の売上高(=自社と競合全社の売上高の合計)
シェアを導き出す方法
質問です!シェアを上げることを目指すのは理解したのですが、どうやってシェアを知ればいいのでしょうか。
そうですね。ランチェスター戦略で一番カギとなるシェアについて、これを正確に知ることはかなり難しいですよね。
シェアを導き出す方法は主に2つあります。以下の方法で算出してみてください。
一つ目は、実際にアンケート調査をするというものです。主にBtoB(会社対会社の取引き)に有効です。
対象とする顧客に対して、売り込みを一切せず、市場調査という名目にして、アンケートをお願いします。
一定期間を決めて、思い切って社員一斉に調査訪問をするというやり方です。
もちろん対象の市場全部をカバーできないと思いますが、回答をいただいた割合から全体を予測することができます。
まずは、シェアを意識できるよう、数字にすることを目指しましょう。
もう一つは統計データから予測するという方法です。
国勢調査等で地域の人口や住宅の数が分かります。会社の数なども国や市区町村の統計データで分かります。こういったデータから、顧客一人(1社)あたりの需要を予測し、全体まで予測していくやり方です。
統計データは以下のサイトなどを参考にできます。
業界によってその業界の統計があるので、そのような資料も活用してなんとか数値化してみてください。
顧客が一般消費者の場合どうするの?
そうですね、そう思いますよね。
対象顧客が一般消費者の場合は、ここまで自社と競合のシェアを導きだすことは困難です。市区町村別の人口統計と業界の需要データなどから大まかに対象とする地域の需要を計算して、そこから自社の売上目標を立てるというような目安として考えてください。
<参考例>
例えば、リフォーム屋さんのような場合は、商圏に何件の家があるかは「令和2年国勢調査_小地域別集計」からわかります。市区町村別に出せます。
次に「国土交通省:住宅関連データ」から年代別の住宅着工数を調べます。リフォームの適齢期は15年~25年くらいと想定して、1997年から2007年に建てられた住宅はおおよそ20%と判断すると、先ほどの商圏内の住宅数のうちの約20%が総需要となります。
このように計算することもできますが、業界紙などでも需要データをまとめて販売していたりするので、それを利用する方が早いですね。毎年ではなくても一度購入すればしばらくは大きな変化は無いと考えられますので当分使えます。
ランチェスター戦略3つの結論
これまでみてきた戦術を総合して、その基本となる3つの結論があります。
- 足下の敵の攻撃
- №1主義
- 一点集中主義
特に重要なポイントですのでこれをしっかり覚えておきましょう。
足下の敵の攻撃
足下(そっか)の敵の攻撃とは、市場シェアの順位を元にどこを集中して攻撃対象とするかということについて、1つ下の順位の敵を攻撃せよ、という考え方です。
シェアを上げるために、ついつい上の順位の敵をライバル視して戦おうとしがちですよね。
ですが、ランチェスター戦略の考えではそうではありません。
なぜなら、すでに自社よりシェアが高い会社は経営資源が上回っているので、そこをターゲットに同じようなことをしても勝ち目がないからです。
攻撃対象とするのは、1つ下の順位の敵です。
ここからシェアを奪うことで、自社のシェアを上げて、上位に上がろうという戦略です。
ほんとだ!C社は上位のB社と戦っていないのにシェアを追い越しました!
順位が下の敵との戦いでは、自社の方が「強者」ということになります。ですので「ミート戦略」が使えます。
基本的に、足下の敵のマネをやっていれば元々売れている自社の方が売上を伸ばせます。ランチェスター戦略の基本は、まずは「勝ちやすいところに勝つ」です。
このように、攻撃対象との順位の関係によって、強者、弱者と戦い方を変えていきます。
足下の敵へのミート作戦と同時に、上位の敵に対しては徹底的に「差別化戦略」です
№1主義
先ほど射程距離理論でお話しましたが、1位になっても逆転可能か不可能かの基準がありました。
その逆転不可能となっている1位を「№1」と呼びます。単なる1位なのか、№1なのかと呼び方を変えています。
ランチェスター戦略の№1というのは、他社に圧倒的差をつけた1位のことです。
具体的には、以下のようになります。
№1とは
・2社間や1つの商品での競争・・・2位と3倍以上のシェアの差が開いている1位
・3社以上や多数の商品の競争・・・2位と√3倍以上のシェアの差が開いてる1位
なぜそこまで№1にこだわるんでしょうか。
おお!び~社長、まるで誰かに言わされているようなナイス質問です!
なぜ単なる1位や2位ではなく、圧倒的1位の№1を目指すべきなのか、それは以下の理由です。
- スケールメリット(販売量が増えて安く仕入れ、生産できる)で価格競争に耐えられる
- 価格主導権を握れる(シェアが大きいため、有利に価格を決められる)
- 代名詞効果(誰もが知っているのは1位のみ。2位以下の会社名は知られていない)
- 持続的繁栄(№1シェアがあることで経営資源が豊富になり、様々なリスクに耐えられる)
- 理想の実現(社会に及ぼす影響が大きくなり、目指している社会を実現できる)
引用|「営業」で勝つ!ランチェスター戦略より
代名詞効果というのは、一企業の商品名がそのカテゴリー全体の商品のように認識されているようなことです。
例えば、宅急便はクロネコヤマトの宅配サービス名です。シーチキンははごろもフーズの商品名ですし、ウォシュレットもTOTOの商品名で、あのおしりを洗ってくれる製品カテゴリーの総称は「温水洗浄便座」です。
ウォシュレットって言えるのはTOTOの製品だけだったんですね!?
ちなみに私はウォシュレットなしでは生きられない体になってしまいました。
1点集中主義
1点集中主義は「弱者の戦略」で特に大切な考え方です。経営資源を分散させず、1点に集中して小さな市場で大きなシェアをとることを目指します。
突破口をひとつに絞り、一点突破して№1になる。そこから次の市場に広げていくことが成功のカギです。
なぜなら、弱者にとっていきなり大きな市場で№1になることは難しいからです。
以下の図のように、まず小さな市場で№1となり、そこから市場、ターゲットを広げて、最終的に大きな市場で強者になることを目指します。(弱小の法則)
総まとめ
では、今日お伝えしたシェア理論、3つの結論を含めてランチェスター戦略の基本をまとめておさらいしておきましょう!
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは戦闘の法則であるランチェスター法則と戦争の法則のクープマンモデルに市場シェア理論を加えた市場競争戦略のことです。
ランチェスター法則とは
戦闘の法則であるランチェスター法則は第一法則と第二法則があり、それぞれ適用される条件によって法則が変わります。
第一法則
一騎打ち、局地戦、接近戦ならば 戦闘力=武器性能×兵力数
第二法則
確率戦、広域戦、遠隔戦ならば 戦闘力=武器性能×兵力数²
これをビジネスへ応用すると以下のようになります。
第一法則
1対1の一騎打ち、範囲を絞った局地戦、顧客と直接対する接近戦
営業力=質(商品力)×量(販売力)
第二法則
1対多数の確率戦、市場全体をカバーする広域戦、広告や代理店を活用する遠隔戦
営業力=質(商品力)×量(販売力)²
弱者の戦略・強者の戦略
ランチェスター戦略では、シェアが1位の会社を「強者」、それ以外は全部「弱者」としています。
それぞれの戦略は以下の通りです。
基本戦略|『差別化戦略』
- 一点に量的資源を集中する『一点集中主義』(他社の量を相対的に上回る)
- 地域や領域を限定させる『局地戦』
- 顧客に接近した販売方法や営業活動の『接近戦』
- 競合を1社に絞り1対1で戦う『一騎打ち戦』
- 奇襲戦法の『陽動戦』
基本戦略|『ミート戦略』
- 事業を広く展開、立地がよく、規模の大きい市場を対象にする『総合主義』
- 地域を広く展開させる『広域戦』
- 広告や代理店を活用した『遠隔戦』
- 全方位の顧客や競合に対策する『確率戦』
- 自社に有利な土俵に誘導する『誘導戦』
市場シェア理論
市場で目標とするシェアは以下の通りで、シェア1位の基準となるのが41.7%です。
この数値はぜひ覚えておきましょう。
73.9% | 上限目標値 | 独占的となり、その地位は絶対的に安全となる。 ただし、1社独占は必ずしも安全性・成長性・収益性がよいとはいえないため、 これ以上取らないほうがよい。 |
41.7% | 安定目標値 | 3社以上の競争の場合、圧倒的に有利となり、立場が安定する。首位独走の条件。 |
26.1% | 下限目標値 | 強者(1位)の最低条件。これを下回ると1位であっても、その地位は不安定。 |
19.3% | 上位目標値 | 弱者だが上位グループに入り、1位も狙える地位。 |
10.9% | 影響目標値 | 10%足がかりといわれ、市場参入時の目標となる。市場全体に影響を与え、 競合とのシェア争いが本格化。上位目標値までがシェアアップの難所。 |
6.8% | 存在目標値 | 競合に存在を認められる程度で、シェア争いが本格化する前の段階。 撤退の基準とする場合もある。 |
2.8% | 拠点目標値 | 市場参入時に、まず橋頭堡(きょうとうほ)をつくる段階での目標値 |
3つの結論
- 足下の敵の攻撃・・・上位ではなく、すぐ下の順位の敵を攻撃対象とする。(勝ちやすい敵に勝つ)
- №1主義・・・単なる1位ではなく、2位に圧倒的差を付けた№1を目指す
- 一点集中主義・・・経営資源を集中し、一点突破で攻略していく。
ここまででランチェスター戦略の基本的な内容は以上です。
どうですか?理解していただけましたか?
はい!いろいろ勉強になりました。
経営にはこんな成功法則があったんですね。
そうなんです。選択に迷った時やうまくいかないな~と思う時は、こういった法則を取り入れて考えてみると、解決の糸口になりますね。
もう一度おさらいしたい人はこちらの記事をどうぞ。