こんにちは。中小企業診断士のマスミです。
今日は弱者の戦略として有名な「ランチェスター戦略」についてお伝えします!
弱者の戦略?ランチェスター戦略?なんとなく聞いたことあるような、、無いような、、
聞いたことが無い方も大丈夫ですよ。この記事で基本的なことから説明しますね。
一般的に経営資源(人、モノ、カネ、情報)が豊富な大企業の方が経営は有利だと考えることが多いと思いますが、それらが限られた中小企業でも勝てる戦略として有名なのが「ランチェスター戦略」です。
ええ?ウチのような中小企業でも成功する方法があるってことですか?
そうです。それがランチェスター戦略の『弱者の戦略』なのです。
ちなみに弱者の戦略の方が注目されがちですがもちろん『強者の戦略』もあります。
ランチェスター戦略自体ができたのは1970年代ですが、この戦略の考えを元に成功している企業も多く、現在の会社経営でも生かせることがたくさんあります。
ランチェスター戦略のすごいところは、具体的なシェアの目標値があり、戦略の根拠やこういう時はどうする?と場面ごとにとるべき戦略がしっかりと示されていることです。
中小企業の戦略は「強みを生かすこと、差別化すること、ターゲットを絞ること」などと言われます。
ただ、いざ戦略を立てるとなると、何をどうやって考えていけばいいんだろう・・・となりがちです。
ランチェスター戦略を学ぶことで、この疑問はかなり解消されますよ。
ランチェスター戦略で成功した会社としては、旅行会社の「HIS」、コンビニの「セブンイレブン」、焼酎の黒霧島で有名な「霧島酒造」、1,000円カットの「QBハウス」など多数あります。
へえ~、そうだったんですね!
成功の裏にランチェスターありって感じです。すごい!
そうなんです。今やほとんどの人が知るこれらの企業も「弱者の戦略」を実践して成功しています。
「弱者の戦略」は全国規模の会社だけでなく、地域密着の中小企業でも成功するための戦略です。
そんな「ランチェスター戦略」とはどんなものか、解説していきたいと思います!
全3回ありますので、今回は導入編になります。
- ランチェスター戦略の成り立ちが分かる
- ランチェスター戦略の元になっているランチェスター法則について理解できる
- 自社がとるべき戦略の方向性が分かる
ランチェスター戦略のなりたち
まず成り立ちについて簡単にご説明します。混乱しやすいポイントがあるので注意が必要です。
ランチェスター戦略とは日本人が作った市場の競争戦略です。コンサルタントの田岡信夫さんという方が作りました。
え、そうなんですか?カタカナなのに?
そうなんです。ではなぜランチェスターというのか、ということからお話しましょう。
ランチェスター法則
ランチェスター戦略は、先ほど市場の競争戦略だとお伝えしましたが、その起源となっているのは戦闘の法則です。
それがイギリス人の航空工学エンジニアのランチェスターさんという人が提唱した戦闘の理論、「ランチェスター法則」です。
「戦略」と「法則」と名前が違うので、注意してくださいね。
ランチェスター法則というのは戦闘で使われる法則で、武器の性能と兵力の数が戦闘力を決めるというものです。
第一次世界大戦の時に考え出されました。
どんな法則かは後ほど説明しますね。
ここでは「法則」と「戦略」で指しているものが違うんだな、と理解いただければ大丈夫です。
クープマンモデル
そして、先ほどの「ランチェスター法則」を戦争の法則として発展させたのがアメリカの数学者のクープマンさんです。
クープマンさんは、戦争において、「戦略」と「戦術」どちらにどれだけお金や人員を割いたら最適か、という配分を考えだしました。
それが「クープマンモデル」です。
結論を言うと、戦略:戦術=2:1が最適とされています。戦術よりも戦略の方がより重要ということです。
クープマンさんは数学者ですから、この結論をめちゃくちゃ計算して、複雑な数式をずらずら書いて導き出したんですが、結論はいたってシンプル、上記の通りです。
戦争における戦略と戦術の違いは、戦略の方がより大きな作戦で、戦術は現場でどう戦うか、ということです。
実際にあった話ですが、日本とアメリカの戦いで、アメリカは日本の武器や食糧などの補給拠点を爆撃しました。一方、日本はそれらの拠点には攻撃せず、軍艦を攻撃していました。
その結果、アメリカは補給拠点が生きていますのでダメージを受けた軍艦の修理や武器の補給などができ、日本に勝ったのです。
日本は補給拠点を攻撃されたことで、食料が得られず餓死する兵士もいました。
アメリカは補給拠点を攻撃する、という戦略を重視しました。
日本は戦場で目の前の敵(軍艦)をどうやって倒すかという戦術を重視していました。
これが戦略と戦術の違いです。いくら小手先で戦術を考えても、根本的な戦略で負けていたら敵には勝てないということです。
ということで、ここでは、戦術より戦略の方が大切なんだな、と理解いただければと思います。
市場シェア理論
そして、戦闘の法則である「ランチェスター法則」、戦争の法則「クープマンモデル」から、市場の競争理論に発展させたのが先ほど紹介したマーケティングコンサルタントの田岡信夫さんです。
その時、クープマンモデルの戦略と戦術の計算方法を解析して市場のシェアの目標値も導き出しています。
市場シェアがどれくらいあればどんな戦略をとればいいのかというのがランチェスター戦略の考え方の中心です。
ですからシェアがとっても重要です。
基準となるシェアについては後ほどご紹介します。
ここまでのまとめ
ここまでのランチェスター戦略の成り立ちを図にすると以下のようになります。
ランチェスター法則、2つの法則
ではまず最初にランチェスター戦略の元となっている「ランチェスター法則」の2つの法則について説明します。
ランチェスター法則は戦闘の法則でしたね。
第一法則
第一法則とは、『一騎打ち』『局地戦』『接近戦』のような、近距離で1対1で戦うような場面では以下の法則が成り立つ、というものです。
戦闘力=武器の性能×兵力数
式が出てきたので難しそうに思いますが、1対1の戦いで、例えば武器の性能が同じだった場合、兵士の人数が多い方が強いよね、と言っているだけです。
以下のようなかみさま軍5人対ゆるわだ軍3人(人?個?)が素手で戦っているとします。この場合の武器性能は素手なので、力が同じだとします。
力が同じなので、戦えば相打ちになり、一人やっつけても一人死亡するという想定です。
単純に人数の多いかみさま軍が2人残り、かみさま軍の勝利となります。
※かみさま、頭に輪っかついてるしすでに死んでるんじゃね?っていうツッコミは無しでお願いします。そしてゆるわださんと素手で戦いたくないというわがままも無しです。
第二法則
第二法則とは、先ほどの第一法則とは違い、『確率』『広域戦』『遠隔戦』のようにマシンガンなどの武器を使って離れて戦う時の法則です。
戦闘力=武器性能×兵力数²
第一法則との違いは、兵力数が2乗になっているということです。
これはどういうことか詳しく説明します。ただしちょっとややこしいので理解できなくても大丈夫です。
まず以下の図を見てください。
武器の性能が同じ1だとします。
かみさま軍は5人いますので、ゆるわだ軍1人(1個?)からの攻撃に当たる確率は1/5です。ゆるわだ軍は3人いますので、かみさま軍全体が受ける攻撃は1/5×3で3/5となります。これはゆるわだ軍の戦闘力でもありますね。
一方ゆるわだ軍は3人なので、かみさま軍1人からの攻撃に当たる確率は1/3です。かみさま軍は5人いますので、ゆるわだ軍全体では1/3×5=5/3の損害を受けます。よってかみさま軍の戦闘力としては5/3となります。
ここまでをまとめると
かみさま軍の戦闘力=5/3、ゆるわだ軍の戦闘力3/5
これを見て、かみさま軍の方が戦闘力が大きいというのは明らかですので、かみさま軍が勝ちます。
ここまでOKでしょうか。
まあギリギリ分かります。
では戦闘力の比較をしてみましょう。
先ほどの戦闘力の分母を両方とも15に揃えて比較します。
かみさま軍の戦闘力=25/15:ゆるわだ軍の戦闘力9/15ですので、
かみさま軍の戦闘力:ゆるわだ軍の戦闘力=25:9
となります。これが戦闘力の比です。
そしてこの数字はかみさま軍5人、ゆるわだ軍3人という兵力数の2乗になっているので以下のように表せます。
かみさま軍の戦闘力=兵力数5²、ゆるわだ軍の戦闘力=兵力数3²
※ここでは武器性能を1としているので省略しています
先ほどの第二法則が証明されましたね。
戦闘力=武器性能×兵力数²
ではさらに、ゆるわだ軍3人が全滅するまで戦うと、かみさま軍は何人残ると思いますか?
ええっ??えーとえーとえーと・・・
ゆるわだ軍の攻撃力は9ですから、かみさま軍も同様に9の攻撃力をぶつけてゆるわだ軍を全滅させます。
そうすると、かみさま軍は25ー9=16で、16の攻撃力が残ります。
先ほど兵力数を2乗しているので、16の平方根をとると、√16=4となり、4人の兵力が残ることになります。
ということでこうなります。
途中で置いていかれました・・・かなぴい
細かい計算過程などは覚えなくても、理解しなくても大丈夫なので、ここでは第二法則は「戦闘力=武器性能×兵力数²」となるんだな、ということが分かっていれば問題ないです。
ランチェスター法則のまとめ
ランチェスター法則、第一の法則と第二の法則を比較してみると、同じ武器性能であれば、第二法則の方が兵力数の違いで戦闘力が大きく変わることが分かります。
第一法則
一騎打ち、局地戦、接近戦ならば 戦闘力=武器性能×兵力数
第二法則
確率戦、広域戦、遠隔戦ならば 戦闘力=武器性能×兵力数²
この結果から、どちらの場合でも兵力数が多い方が有利であることに違いはないのですが、第二法則が適用する条件では、圧倒的に兵力数が多い方が有利です。
兵力数が少ない軍が多い軍に勝つ方法はないのでしょうか・・・
大丈夫です。あります。
それはまず、兵力数の差が戦闘力への影響が少ない第一法則の条件下にもちこみます。そして、武器性能を上げることです。
そうすることで戦闘力を上げて勝つ道が見いだせます。
また、第二法則の条件下であっても、地域を絞って局地戦に持ち込み、そこに兵力を集中させることでその局面においては兵力数を多くすることができます。
このように、兵力数で劣る軍であっても勝つ方法はあります。
なるほど!!兵力数が少ないと絶望しかないと思っていましたが、道が開けました!
では兵力数が少ない軍でも勝つ方法をまとめておきましょう。
- 第一法則の条件下『一騎打ち』『局地戦』『接近戦』に持ち込む
- 兵力の差を補うために武器性能を向上させる
- 一点に兵力を集中させて局所的に兵力数を上回るようにする
次はいよいよランチェスター戦略についてですが、一度休憩をしましょう。今回はここまでにします。
ううう、ビジネスの話が気になります。。
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