こんにちは。中小企業診断士のマスミです。
前回はランチェスター戦略の元となる「ランチェスター法則」について解説してきました。
兵力が少ない軍が勝つ法則が分かりましたが、これがビジネスにどうつながるんでしょうか。
そうですね、今回はいよいよビジネスへの応用のお話です。
前回の記事をふまえた内容なのでまずはこちらから読んでみてくださいね。
では早速始めましょう!
- 弱者の基本戦略と戦法が分かる
- 強者の基本戦略と戦法が分かる
ランチェスター法則をビジネスに応用する
戦闘の法則であったランチェスター法則は以下のようなものでした。
第一法則
一騎打ち、局地戦、接近戦 ならば 戦闘力=武器性能×兵力数
第二法則
確率戦、広域戦、遠隔戦 ならば 戦闘力=武器性能×兵力数²
これをビジネスに応用すると、戦闘力を営業力と置き換え、武器性能は商品力、兵力数は販売力となります。
具体的に言うと、以下のようになり、質的な経営資源と量的な経営資源に分けられます。
- 商品の品質や性能
- 開発力
- ブランド力
- 顧客対応力
- 営業のスキル
- 社員数
- 代理店担当の人数
- 売り場面積
- 設備の数
はーい!数字で表せないものが「質」、表せるものが「量」って感じですか?
お、び~社長、なかなかいいところをつきますね!
そうですね。商品力もいろいろ指標を使って数値化することはできるかもしれませんが、一般的にぱっと数字で表せるものを「量」とする、でいいです。
これらを掛け合わせたものが営業力になります。
そしてランチェスター法則の条件は以下のように置き換えます。
- 一騎打ち戦か確率戦か・・・・競合の数。1対1で競合と戦うか、一度に多くの競合と戦うか。
- 局地戦か広域戦か・・・・・・地域やターゲット。範囲を絞るか市場全体をカバーするか。
- 接近戦か遠隔戦か・・・・・・顧客との距離。顧客と近い距離で対面で営業するか、離れて広告や代理店を使うか。
ということで、ランチェスター法則をビジネスに応用するとこのようになります。
第一法則
1対1の一騎打ち、範囲を絞った局地戦、顧客と直接対する接近戦
営業力=質(商品力)×量(販売力)
第二法則
1対多数の確率戦、市場全体をカバーする広域戦、広告や代理店を活用する遠隔戦
営業力=質(商品力)×量(販売力)²
量的資源が劣る企業が市場で勝つための法則はランチェスター法則と同じです。
- 第一法則の条件下『一騎打ち』『局地戦』『接近戦』に持ち込む
- 量的資源の差を補うために商品力を向上させる
- 一点に量的資源を集中させて局所的に上回るようにする
ちなみに
なんで戦闘の法則がビジネスでも同じように考えられるの?
と思うかもしれませんが、マーケティングコンサルタントの田岡信夫さんが、同じように当てはまるかどうかを研究して検証してきた結果、当てはめることができると導き出したので市場競争の戦略となったんですね。
ですので、そこを疑って自分で検証しようとすると、めちゃくちゃ時間がかかるので、そうなることが分かったんだな、と思っていただければと思います。
弱者と強者の定義
では次から弱者と強者の戦略の話をしますが、その前に大前提の「弱者」と「強者」の定義についてです。
ランチェスター戦略では、シェアが1位の会社を「強者」、それ以外は全部「弱者」としています。
会社の規模は全く関係ありません。日本の自動車メーカーであれば、強者はトヨタのみ、日産やホンダは弱者です。
そして、シェアを決めるのは、業界全体だけではなく、もっと細かく区切った範囲でもいいです。
製品の区分であったり、地域だったり。
ですから、大企業であっても弱者になりますし、中小企業であっても、〇〇市の〇〇町でシェアが1位の何かがあれば強者になりえます。
ということで、ランチェスター戦略を使いこなすために、まずは自社のこの製品やこのサービスが「強者」なのか「弱者」なのかを認識しましょう。
商品や地域ごとにシェアが違いますので、それによって選ぶ戦略も変えていくということです。
シェアを基準にするんですね。よく分からないものもありますね。。
もしどちらか分からなかった場合は「弱者」だと思って戦略を選べばいいですよ。たいていの場合は弱者になりますからね。
詳しいシェアの考え方については後ほどお伝えします。
弱者の戦略
弱者の戦略とは、このランチェスター法則の第一法則を元にした戦略です。
第一法則
1対1の一騎打ち、範囲を絞った局地戦、顧客と直接対する接近戦
営業力=質(商品力)×量(販売力)
量的資源に劣る企業が市場で勝つための法則は以下の通りでした。
- 第一法則の条件下『一騎打ち』『局地戦』『接近戦』に持ち込む
- 量的資源の差を補うために商品力を向上させる
- 一点に量的資源を集中させて局所的に上回るようにする
ランチェスター法則でいう「武器性能」は「商品力」に該当しますが、この「商品力」を高めるための基本的戦略が『差別化戦略』です。
「他社と差別化する」とはよく言われることですが、単に他社と違うことをするだけでなく、顧客のニーズに応えた商品やサービスで他社の質を相対的に上回る必要があります。
弱者の戦略はこの『差別化戦略』が中心となります。
その他、以下の戦法を合わせたものが弱者の戦略となります。
基本戦略|『差別化戦略』
- 一点に量的資源を集中する『一点集中主義』(他社の量を相対的に上回る)
- 地域や領域を限定させる『局地戦』
- 顧客に接近した販売方法や営業活動の『接近戦』
- 競合を1社に絞り1対1で戦う『一騎打ち戦』
- 奇襲戦法の『陽動戦』
これらの原則を元に戦略を考えていくことで弱者が市場で勝つことができます。
ではどのようにこれらの原則を活用していけばよいかもう少し詳しくみていきましょう。
差別化戦略
差別化するといってもどんなことが差別化になるんでしょうか・・・
そうですね、差別化する要素としては以下の切り口分けてみると考えやすいです。
- ターゲットとする顧客(地域や客層)
- 商品(品質、デザイン、使い方、付随するサービス、売り方)
- サービス
- 価格
- 流通(販売経路)
- 販促(広告宣伝、ブランディング、営業方法)
- 経営理念(理念や事業への思い)
これらの切り口で、競合を上回る価値を提供できないかと考えてみてください。
そして、差別化要素はたくさんアピールしても伝わりにくいので、3つに絞ってアピールすることを考えてみると良いです。
自社がどんな強みがあるかということを整理した上で考える必要がありますので、自社の分析をすることも必要です。
それから、その強みは顧客にとって価値があるかということが重要です。
差別化を考える時のチェックポイント
- 顧客のニーズがあるか
- 競合を上回る価値があるか
- 3つに絞る
しっかりと分析をするための方法はこちらの記事を参考にしてみてくださいね。
一点集中主義
一点集中主義とは、特定の地域や事業に絞り、そこに経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を集中投下することです。
どんな点に集中するかは、自社が勝ちやすいところです。
市場の大きさ、成長性などで考えると強者と重なってしまう場合があるので、意識しすぎず、まずは自社の得意分野、得意なエリアに絞って集中することです。
そこに自社の経営資源を集中させることで、量をカバーすることができます。
例えば、幅広い年齢層を対象にしていたサービスを、30代の仕事がとても忙しい独身女性だけをターゲットに絞り込み、そのターゲットにとっての価値を高めたサービスに特化する、などということです。
最近よく見かける食パン専門店やからあげ専門店なども商品を絞った一点集中主義ですね。
専門性を高めることで他社と差別化でき、より高い価値を提供することができます。
確かに・・専門店にすれば、その分野だけに集中すれば良いので品質やサービスレベルを強化しやすいですね。
このように1点に集中して攻略したら次の領域、というように、弱者の戦略では各個撃破が基本です。
局地戦
局地戦は地域を限定することです。地域を絞ることで対応できるサービスの幅や質を高めることができます。
例えば、自社から車で10分以内で行けるところに絞って商圏とすることで、何かあった時にすぐに対応ができるといった価値を提供し、他社と差別化することができます。
限られた地域であれば、その地域特性に合わせたサービスを提供するということも可能になります。
ここで狙うべきは、自社が強いエリアの他、強者が手薄になっている地域を優先します。
交通の便が悪かったり、山間部だったり、一見魅力的でない場所の方が競合が少なく、攻略しやすいからです。
地域を限定することで、顧客の細かなニーズに対応しやすくなり、自社の提供する価値を高められますね。
接近戦
接近戦は、できるだけ顧客に近い販売方法を選択するということです。
環境によってできないこともありますが、対面で直接説明したり、ひとりひとり個別に対応したりすることで、顧客との関係を築いていきます。
そこからニーズを拾うこともでき、より顧客のニーズに合った商品やサービスを提供することにもつながります。
それに、代理店がいる場合、代理店は売れている会社の商品を売りたがりますので、代理店の力を使えるのは強者だけだと考えていた方が良いです。
弱者は自力で売る力が必要です。
たしかに・・・代理店からするとどこの会社の商品を売っても良いですからね。
一騎打ち戦
一騎打ち戦というのは、競合1社を狙い撃ちするということです。
市場では競合が1社ということはほとんどありませんが、一度に多数の会社を相手に勝とうとするのではなく、1社ずつ対策をとり、その会社のシェアを奪う対策を行います。
1社が攻略できたら、次、というように1社ずつです。一点集中主義でも出てきましたが、各個撃破です。
それから、法人営業で新規法開拓を行う場合は、顧客の取引先が1社だけのところを狙います。
多数の会社が参入している顧客の方が参入しやすいと考えるかもしれませんが、顧客の立場からすると、1社からではなく、複数社から仕入れたいと考えているはずです。
ですから、1社独占になっているような顧客の方が入り込みやすいんです。
これを理解していると、どんな顧客をターゲットにすると良いかが分かりますね。
陽動戦
陽動戦というのは、ちょっと奇をてらったインパクトのある作戦を立てることです。
市場全体をカバーしているようなシェアの高い強者では、あまり尖った戦略を立てると顧客離れが起こったりするので、こういった戦略は立てにくいんですね。
ですからそこを狙います。
例えば、ちょっとユニークなネーミングの商品にしたり、ターゲットを極端に絞った商品やサービスにしたりなどです。
それによって顧客にインパクトを与えてコアなファンを獲得するきっかけにします。
そして重要なのは、こういった情報をしっかり管理して漏れないようにすることです。
強者の戦略で説明しますが、シェアトップの会社にマネされてしまっては陽動の意味がなくなります。
他社が考えつかなそうな思い切ったことをやってみるということですね。
面白そうな作戦だとつい話したくなるので漏れないよう注意ですね。
ここまでが「弱者の戦略」の基本的な考え方です。
いろいろありますが、全体を通して言えるのは、差別化することを意識して、経営資源を分散させないようターゲットを絞りそこに集中する、ということです。
強者の戦略
では続いて「強者の戦略」についてみていきましょう。強者とはシェアが1位の会社のことです。
強者になったらどんな戦略をとると良いのでしょう。
シェアが1位ですので、売上も大きく資金もあり、販売力も高いです。
ランチェスター法則、第二法則下では販売力は2乗に働きますので、強者は第二法則の条件下に持ち込むと圧勝できますね。
第二法則
1対多数の確率戦、市場全体をカバーする広域戦、広告や代理店を活用する遠隔戦
営業力=質(商品力)×量(販売力)²
強者の戦略の基本となるのは「ミート戦略」です。弱者の「差別化戦略」封じ込めるのが目的です。
ミート戦略は簡単に言うとマネです。同質化、2番手作戦などを総じてミート作戦と呼んでいます。
強者の戦略はこの「ミート戦略」を中心にして、ランチェスター第二法則を元にこれらを基本戦法とします。
基本戦略|『ミート戦略』
- 事業を広く展開、立地がよく、規模の大きい市場を対象にする『総合主義』
- 地域を広く展開させる『広域戦』
- 広告や代理店を活用した『遠隔戦』
- 全方位の顧客や競合に対策する『確率戦』
- 自社に有利な土俵に誘導する『誘導戦』
では強者の戦略についても詳しくみていきましょう。
ミート戦略
ミート作戦とは、マネをする、同質化するということでしたね。
弱者が差別化しようとして行っていることをマネすれば、元々知名度が高く、売れている強者の方が選ばれるからです。
な、なんてむごい、、せっかく差別化しても、強者にマネされたら負けますね。
そうなんですよ。ですから強者がマネできないような差別化を図るのが弱者の戦略なんです。強者が対応しにくい地域密着のサービスなどは弱者の差別化に有効ですね。
そうか、だから弱者の戦略では地域やターゲットをを限定するんですね!
そういうことです!
このミート作戦、意識して見てみると様々なところで行われていたりします。
例えばマクドナルドの商品戦略。マクドナルドは国内シェアトップの強者です。
マクドナルドでは一回り大きい「メガ」シリーズが発売されたことがありますが、それは競合のバーガーキングに対してミート作戦を行ったと考えられています。
バーガーキングのウリはワッパーと呼ばれるボリューム感あるハンバーガーですが、バーガーキングがアメリカから日本に上陸する前にマクドナルドは「メガマック」を発売しています。
バーガーキングの差別化を封じ込めたんですね。
そしてそれに対抗しようとしたバーガーキングはさらに日本独自の「テリヤキワッパー」を発売しようとしましたが、なんとマクドナルドは「メガテリヤキ」を投入したのです。
マクドナルドすご・・完全にバーガーキングはやられましたね。
そうなんです。
ですから、弱者は強者にマネされない施策、それから情報をしっかりと洩れないよう管理して奇襲をかけることが重要になってくるんですね。
このバーガーキングの例だと、情報が洩れていたとしか考えられませんね~。
総合主義
総合主義とは、総合力で勝つことです。
広告の量、代理店の数や営業数を増やしたり、グループ会社の協力を得たり、強者の持つ資源を最大限活用した戦い方です。
対象とする顧客は一番需要が多いエリアや大口顧客であったり、市場全体の顧客をカバーする商品を販売する、良い立地条件に規模の大きな店舗を構えるなどをします。
広域戦
広域戦とは、営業範囲を広く大きくとることです。市場規模が大きく、成長性が高い大都市で勝つことです。
強者であれば、知名度も実績もありますので、こういった魅力度の高い地域、市場をターゲットにすることで大きく売上を拡大させることができます。
強者になると断然戦い易くなりますね。
遠隔戦
遠隔戦とは、顧客との距離を縮める前に決着をつける戦い方のことです。
先ほど弱者の「接近戦」でお伝えしたように、強者は代理店の力を存分に使えます。
また、広告宣伝、広報なども遠隔戦の戦い方です。宣伝することで、指名買いをしてもらうようにします。
例えば弱者がTVCMを行い、その広告を見て欲しいなと思っても店頭に並んでいるのは強者の商品、ということがあります。ですから、マスメディアを使った広告は強者の戦略と考えるのが一般的です。
強者は顧客に近づかず、遠隔で大量に広告やPR活動をすることでも売上拡大が期待できます。
広告を見て欲しくなって、いろいろ検討していると、結局一番売れている会社がいいのかな、となったりしますね。
確率戦
確率戦とは、重複しても良いので市場、地域全体をカバーさせることです。
確率戦として有名なのはトヨタのフルライン戦略です。トヨタは、どんな顧客にもマッチするようあらゆるタイプの商品を揃え弱者の入る隙を与えていません。
販売拠点も多数あり、エリア内で自社同士が競合しても構わない覚悟で市場全体をカバーしています。
また、新規開拓の場合は競合が多いところに入っていきます。強者であれば一番売れている会社です。人は迷ったら売れている会社を選ぶ心理が働くので、多数を相手にしても勝てる可能性が高いのです。
つ、強い。トヨタすごすぎます。。
誘導戦
誘導戦とは、先手を打つことです。
強者の戦略はミート戦略が基本で、2位以下の会社のマネをすれば良いとされていますが、そういった待ちの姿勢だけではなかなか勝ちにくくなっています。
そこで、先手を打ってしかけていきます。
ここで弱者は強者のマネをして追随してはいけないのですが、やってしまう会社はあるでしょう。
例えば価格競争が良い例です。強者が価格を下げる弱者も下げずにはいられません。
ただし、販売数の多い強者は生産コストが低いので、利益率が高く利益を確保できますが、弱者は耐えられなくなります。
こうして弱者がマネをして市場が活性化することで、結局は一番売れている強者が選ばれ、売上を拡大できるという仕組みです。
はいっ!強者のマネをしないことをここに誓います!!
飛んで火にいるなんとやら・・じゃないですか~
ここまでのまとめ
今回は弱者の戦略、強者の戦略について解説しました。
ここまでをまとめておきましょう。
弱者と強者の定義
弱者とは、シェア1位の会社以外すべて
強者とは、シェア1位の会社のみ
ここで大切なのは、弱者なのに強者の戦い方をしていないか?ということです。
地域や商品を絞ってみて、そこで弱者だった場合は弱者の戦略を取らなければいけないんですね。そういった視点で自社の立ち位置を確認して、とるべき戦略を選んでいきます。
また、弱者であると自覚していていも、やっていることが強者の戦略になっていることはよくあります。
それではうまくいきません。今回お伝えした弱者の戦い方を元に、あらためて戦略を考えてみてくださいね。
次回が最後、後編です。これまで出てきた「シェア」の考え方についてとランチェスター戦略で最も大切な3つの結論をお伝えします!
確かに・・シェアについてどう考えればよいか疑問でした。
そしてついに結論が分かるんですね!ワクワク
つづきはこちらから!